日本の教育を考える

日本の教育が少しでも良い方向に進化していってほしいなと願いつつ、感じたことを書いてみます。

川崎中1殺害事件

2015年(平成27年)2月20日、神奈川県川崎市の多摩川河川敷で13歳の中学1年生の男子生徒(13歳)が殺害され、遺体を遺棄された。

【事件の経過】
被害者は、12月までは特に欠席もなく登校していたが、冬休み明けの1月8日から登校していなかった。担任が電話すると、母親が「用事で行けない」と返答したという。担任が母親に最後の電話をしたのが、2月18日。3学期が始まってからこの日までに担任は計34回の電話、5回の家庭訪問をしたが、被害者に会うことができなかった。
その一方で、被害者は友達にはSOSを発していたようだ。1月中旬、同級生が顔を腫らした被害者に会ったが、誰に殴られたのかは言わなかった。また、LINEを通して友達に「上級生に殴られて殺されるかもしれない」と伝えたこともあった。

事件から1週間後、少年3名が逮捕された。このうちリーダーとみられる18歳の少年は殺人の疑い、18歳(事件当時は17歳)の少年と17歳の2名は傷害致死の疑いで、横浜家庭裁判所へ送られた。家庭裁判所は3人を少年鑑別所に移して少年審判を開き、観護措置の期間を法律の上限の8週間に延長して審理を行った結果、3人を検察庁に送り返す決定をした(逆送)。
この決定を受け、横浜地検は21日、殺人や傷害致死の罪で少年3人を起訴した。つまり、成人と同じように法廷で刑事裁判を受けることになった。

【事件の背景】
被害者の男子生徒は母子家庭で育ち、きょうだいも多く、経済的に困難な状況にあったと思われた。母親は一人で家計を支えるため、二つの仕事を掛け持ちしており、被害者の行動に目が行き届かなかった面があるようだ。
川崎市では、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(SSW)が各区に配置されていたが、学校からの派遣要請がなかったため、被害者の家庭への支援を行っていなかった。もしもSSWが介入していたら……、必要な支援が受けられ、「時間の貧困」が改善された可能性がある。

 

3月
この事件の被害者と同様の危機にさらされている可能性のある児童生徒を把握するため、文部科学省が「児童生徒の安全に関する緊急確認調査」を実施、その結果を公表した。
国公立私立の小学校、中学校、中等教育学校、特別支援学校の児童生徒のうち、①7日間以上連続して連絡が取れず、生命・身体に被害が生じるおそれがあると見込まれるものは232人、②学校外の集団との関わりの中で生命・身体に被害が生じるおそれがあると見込まれるものは168人。現在、合計400人(①232人+②168人)が危機にさらされていることがわかった。校種別の内訳は、小学校74人、中学校243人、高校75人、特別支援学校8人。

4月
文部科学省は、「児童生徒の安全に関する緊急確認調査の結果を踏まえた措置に係る調査」の結果を公表した。これは、3月に公表した調査結果で危機にさらされていた児童生徒400人がその後どうなったかの追跡調査を行い、その結果を公表した、ということ。

国公私立の小学校、中学校、高校、中等教育学校、特別支援学校の児童生徒のうち、①7日間以上連続して連絡が取れず、生命・身体に被害が生じるおそれがあると見込まれた児童生徒(232人)の4月13日時点の状況は……
・被害のおそれが解消したと考えられるもの 189人
・被害のおそれの解消に向けた対策が進行しているもの 9人
・被害のおそれが解消していないと考えられるもの 0人
・被害のおそれが解消できたか判断できないもの 27人
・国外に転出したことが確認できたもの 6人
・前回調査以前に死亡していたことが確認されたもの 1人
②学校外の集団との関わりの中で生命・身体に被害が生じるおそれがあると見込まれた児童生徒(168人)の4月13日時点の状況は……
・被害のおそれが解消したと考えられるもの 121人
・被害のおそれの解消に向けた対策が進行しているもの 47人
・被害のおそれが解消していないと考えられるもの 0人

 

4月
政府は、子どもの貧困対策のため民間資金を活用した基金を新設すると発表、「子どもの未来応援国民運動」発起人集会を開催した。

厚生労働省の2012年の国民生活基礎調査によると、経済的に困難な状況にある人の割合を示す「相対的貧困率」は16.1%。ひとり親家庭の場合、54.6%が貧困状態にある。

 

5月
川崎市教育委員会は、この事件に関する検証委員会の最終報告書案を了承した。事件を防げなかった要因については、「本事案における最大の課題は、学校が被害者の状況を十分に把握できなかったことにある」と結論づけた。再発防止策としては、不登校対策、児童生徒への指導体制の見直し、学校と警察との連携に係る連絡協定の終結などが挙げられた。

8月
政府は子どもの貧困対策について話し合う関係閣僚会議を首相官邸で開き、経済的に厳しい、ひとり親家庭・多子世帯への支援策をまとめた。
まず、子どもの居場所を平成31年までに年間延べ50万人分つくり、学習の支援や食事の提供を行う予定だ。中学生に無料で学習支援をする「地域未来塾」を来年度は2000か所から3600か所に増やし、「高校生未来塾」(仮称)の新設も検討する。
さらに、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(SSW)も、来年度は1200人の増員を行い、平成31年までに1万人配置を目指す。これより、すべての中学校区に1人のSSWを派遣できる体制が整うことになる。

 

10月
川崎市教育委員会と県警は、「相互連携にかかわる協定書」を結んだ。今後は気になる児童生徒の情報を両者が共有し、具体的に対応していくことができるようになる。

 事件が起こる前の、1月中旬に18歳の少年は被害者に対して殴るなどの暴行を行い、被害者の目の周りにはあざができていた。それを知った被害者の友人たち数人が2月12日に少年の家に押しかけ、謝罪を要求した。このとき、少年の家族が110番通報し、警察官が駆けつける騒ぎになっていた。警察官が被害者に電話したところ、被害者が「仲良くなったから大丈夫」と説明したそうだ。
 川崎市では、公立小中高の生活指導担当教諭、市教委の指導主事、警察署の少年事件担当者などでつくる「学校警察連絡協議会」が8地域にあり、定期的に情報交換を行っている。その会合で、被害者が通う学校から「最近、不登校になった子どもがいる」との報告があったものの、個人情報への配慮から、被害者の氏名や住所は公表されなかった。その結果、警察と学校は被害者に関する情報を共有できず、特別な対応は行われなかった。

この協定を結んでいる教委は県内で多数あるが、注目すべきは、今回、初めて携帯電話やインターネット情報の共有に関する条項を盛り込んだ点だ。
被害者は自分が抱えていたトラブルをLINEに書き込んでおり、グループの仲間たちは危険な状態にあることを知っていたが、誰も周囲の大人や教師に助けを求めなかった。もしも学校や警察が事前にトラブルを把握できていたら、何らかの対応ができた可能性がある、ということで「携帯電話やスマートフォン、インターネット等を使ってのトラブルに関する事案」も共有することになった。


11月
川崎市教育委員会不登校対策の教員向けの指導用冊子を4年ぶりに刷新し、市立学校の教職員に配布した。冊子のタイトルは「一人ひとりの子どもを大切にする学校をめざして」。「病欠」も不登校につながる可能性があるととらえ、より迅速な対応を現場に求めている。前回の冊子では「欠席が3日以上続くなら本人に会う」とされていたが、今回の冊子では1日目に「電話する」、2日目に「本人に会う」、3日目に「チームで支援する」に改められた。

12月
殺人と傷害の罪などで起訴されたリーダー格の少年(19)の裁判員裁判の公判前整理手続きが横浜地裁で行われ、来年2月2日に初公判が開かれることが決定した。第2回公判は3日、第3回公判は4日で、3日連続で公判が行われる。
 18歳と17歳の少年2人については、横浜地検傷害致死罪で起訴し、横浜地裁で公判前整理手続きが行われているが、公判期日は指定されていない。

 

2016年2月

初公判(裁判員裁判)でリーダー格の少年は起訴内容を認めた。横浜地裁は懲役9年以上13年以下の不定期刑を言い渡し、検察側・弁護側ともに控訴せず、刑が確定した。

 

2016年3月

2015年2月19日夜に被害者からLINEで連絡が来た際、リーダー格の少年と一緒にいることを隠して呼び出した少年は、初公判(裁判員裁判)で起訴内容を認めた。横浜地裁は懲役4年以上6年6月以下の不定期刑を言い渡し、検察側・弁護側共に控訴せず、刑が確定した。

 

2016年5月

もうひとりの少年は、リーダー格の少年に持ってきたカッターナイフを渡し、自分も複数回首を切りつけ、被害者の頭を護岸に叩きつけたとされている。しかし、初公判(裁判員裁判)では事件現場にいたことは認めたが、無罪を主張した。横浜地裁はカッターナイフを渡した点を重くみており、「自らの行為に向き合っておらず、供述は不自然で信用性は低い」とし、懲役6年以上10年以下の不定期刑を言い渡した。

 

2016年6月

3人目の少年は、判決を不服として東京高裁に控訴した。