子どもの貧困と学力格差は深刻な問題。
子どもの貧困の連鎖を断ち切るには……福祉的な側面からのサポートが必要です。
つまり、お金の問題ですね。一人親家庭のお母さんが生活のために、二つも三つも仕事をするようでは、生きることでいっぱいいっぱいで、子どもの教育に十分に目が行き届かなくなる場合があるからです。
でも、現状では生活が苦しい親子が放置されています。
そうなったとき、貧困の連鎖を断ち切るために、学校にできることは何かといいますと、それは貧困家庭の子どもの学力を上げることです。
なぜかというと、毎年春に小中学校では全国学力・学習状況調査というものが行われているのですが、この結果を見ますと、家庭の所得が高く両親の学歴が高い家の子どもほど成績が高く、所得が低く両親の学歴が低い家の子どもほど成績が低いという結果が出ているからです。
平成25年の全国学力・学習状況調査では、初めて保護者調査というものを行いました。その結果をお茶の水大学の研究グループが分析したのですが、データとしてはっきり学力の格差が現れています。
↓のグラフをごらんください。私はこのグラフを見た時、衝撃を受けました。
このグラフは、SESといって、家庭の所得と両親の学歴を点数化した指標で、子どもの家庭を4つのグループにわけています。一番左は所得も両親の学歴も低い家庭の子どもたちのグループ、一番右は、所得も両親の学歴も高い家庭の子どものグループです。これは算数Bという科目のテスト結果ですが、当然、SESが高い家の子どもの方が点数は高くなります。
今度は各グループの中の点数と勉強時間の関係を見てみますと、長時間勉強した子どものほうが、ぜんぜん勉強しない子どもよりも成績がよくなっています。これもまぁ、当然と言えば当然です。
ここまではいいんですよ。問題はここからです。
(出典:平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究)
SESが一番低いグループの中で一番成績がいいのは、「2時間以上、3時間より少ない」子どもたちです。点数は64.6点ですね。そこから右へ視線を動かしていってみてください。
SESの一番高いグループの中で、「全く勉強しない」子どもの点数は何点ですか?
69.7点ですよ。
つまりですね、SESが一番低いグループで2時間以上勉強した子よりも、SESが一番高いグループで全く勉強しない子のほうが成績がいいってことです。
それぐらい、家庭の影響は大きく、すでに差がついているということです。
(もちろん、例外はいますよ。悪条件でも成績がものすごくいいお子さんはいます。でも、データでみるとこうなるということです。)
専門家によりますと、昔はこんなに差がついていなくて、悪条件の家に育っても努力すれば挽回は可能だったそうです。
しかし、今はどんな家に生まれるかで、ある程度決まってしまうわけですね。
お金持ちの家では、家族は代々学力が高く、学力が高いほうが世の中を比較的有利にわたっていけることを知っていますからね。評判のいい塾に通わせ、子どもの教育にものすごくお金をかけます。
一方、貧困家庭の子どもは、毎日ご飯を食べられるかどうかが問題なのです。塾にも通えないし、教育にお金をかけるどころの話ではありません。実際に、給食で生き延びている子もいます。
このまま放っておけば、両者の学力の格差は広がるばかりです。
だからこそ、学校はSESが低い家の子どもたちの学力を上げる努力をしてほしいと思うわけです。
私の両親は高卒ですからね。もしも子ども時代にこんなデータを見ていたとしたら、やる気を失っていたと思います。「最初から勝負はついてるんだから、勉強なんかしても無駄じゃん」とかいってたでしょう。
子どものうちから人生に失望したらどうなるでしょうか……。
勉強なんかしないで、ゲームばかりするでしょう。授業がわからないと、学校に行ったってつまらないですから、行かなくなります。小学校から不登校になった場合、基礎的な学力が身に付かないですから、アルバイトをしたくても採用してもらえず、将来は生活保護……まさに貧困の連鎖です。夢も希望もなくなって、「こんな国、ぶっこわしてやる」みたいな発想になるかもしれません。
最初の話に戻りますと、貧困家庭の子どもに金銭面での十分なサポートができない以上は、学校が生きていくのに十分な学力をつけさせてあげてほしいと思うのです。
別に、ものすごく優秀にしなくてもいいんです。
夢や希望を持って、自分がどう生きるかを選べるようになれば。
少なくとも、中学を卒業するときに、かけ算九九は言えるようになってほしいなと思うわけです。