日本の教育を考える

日本の教育が少しでも良い方向に進化していってほしいなと願いつつ、感じたことを書いてみます。

全国学力・学習調査は何のためにするのか、知っていますか?

新聞などで「全国学テ」と呼ばれている、全国学力・学習状況調査(以下、全国学力調査)は、毎年4月に実施されておりましたが、2020年度は延期となりました。

今の、先が見えない状況を考えますと、それは仕方のないことかなと思います。

ただ、ネットなどを見ておりますと、中止しろ、廃止しろ、無意味だ、などの意見が散見されます。

私は全国学力調査は必要だと思っています。

そう考えるのは、中教審の委員の方たちや、全国学力調査の方向性を決める「全国的な学力調査に関する専門家会議」のメンバーの方たちに何度か話を聞く機会があり、何のためにやっているのかを知ったからです。

 

全国学力調査の目的とは何でしょう。

国は2007年から、1回あたり約50億円もかけて全国の公立小中学校のすべての小学6年生と中学3年生を対象に学力調査を行っているわけですが、それは…各県にランキングをつけて、競争意識をあおろうとしているから、ではないんですよ。

 

文部科学省のホームページを見ますと、その目的はこう書いてあります。

義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から、全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。

↑こんなことが書いてあっても、わけがわかりませんよね。少なくとも私には何がいいたいのかわかりません。

シンプルな言い方をしますと、この調査の大きな目的の一つは「学力の格差を改善すること」です。

この国では、どんな家庭に生まれたか、どんな地域に生まれたかで、学力がある程度決まってしまう現実があります。もちろん、例外はありますが、このことはデータでも立証されています。

都会で、裕福な家に育った子どもは、塾に行ってどんどん賢くなりますが、そうでない環境で生まれた子どもには学校しかなく、このままでは格差は開く一方だったのです。

 

全国学力調査の正答率は、先生たちへのメッセージです。

正答率が低い問題は……。

「ここの単元のここは、子どもたちがあまりわかっていませんよ。もっと教え方を工夫してみてくださいね」

正答率が低い子どもがいたら……。

「この子は、この部分が理解できてないみたいですよ。先生が指導してあげてくださいね」

 

つまり、先生たちにとっては、「教え方を変えなくてはならない」という現実をつきつけられる結果になりますので、面倒くさいものです。

だから、先生たちの中に「中止しろ」と考える人がいるのは理解できます。そりゃそうですよね。仕事が増えますから。

 

ただ、全国学力調査の成果は確実に出ています。

まず、上位県と下位県の正答率の差が、明らかに小さくなりました。上位県の顔ぶれはほとんど変わっていませんが、下位県の教育委員会が「なんとかしなければ」と取り組んだおかげです。学力格差は少しずつ改善されているのです。

それから、先生たちの意識が変わりました。私はだいぶ長くこの仕事をしていまして、以前は、「どう指導するか」が重要であり、「我々の素晴らしい指導を受け止められない子どもはしょうがない」的な暗黙の了解があったように思います。しかし、上位県ではどの子にもしっかり理解させているわけですから、「しょうがない」では済まなくなったのです。点数ではっきりと出てしまうので、先生たちは「子どもがどう受け止めるか」を強く意識するようになったと感じています。それは各校の、校内研究の研究紀要などを見ますとわかります。表現が明らかに変わりました。

 

もちろん、問題はあります。

正答率を上げるために、過去の問題をひたすらやらせてテスト対策をしている学校があります。これはやめるべきです。勉強しなくてはいけないのは、先生たちなんですから。

「だったら、県別の平均正答率なんか公表するなよ」と思う方もいるかもしれませんが、あれは必要なことです。例えば、全国トップクラスの秋田県ではどういう指導をしているのかを知るため、他県の教育委員会が視察に行ったり、教員を派遣したりしているのです。上位県のやり方を参考にさせてもらって、多くの県が学力向上に役立ててきたからです。

2007年に全国学力調査が始まったことで刺激され(?)、独自の学力調査を実施する県も増えましたので、もう役割は終えたと主張する方もいます。

海外と比べますと、国レベルで全国一律の学力調査が実施できること自体が、すごいことなんだそうですよ。費用の面でも手間の面でも。

 

私は、できれば、毎年、悉皆(対象者全員)でやっていただきたいと思っています。県レベルの学力の格差問題は改善されてきてはいるものの、まだまだ格差はあります。県の中にも市の中にも、正答率が高い学校と低い学校があります。同じ学年でもクラスの中にも正答率が高い子どもと低い子どもがいます。

放っておけば下位層になってしまう子どもに目を向け続け、指導していくことは重要だと思うのです。

それと、全国津々浦々まで、小さな村や島であっても、教育の機会を均等にする、という意味でも必要だと思うからです。

きれいごとだと、言われてしまうかもしれませんけどね。

 

しかし、費用、準備、手間を考えますと、今後は、抽出にするとか、数年おきにするとか、やり方が変わってくるかもしれません。